予備校数学講師という稼業

あまり需要のない頁とは思いますが.たまに「なりたい」という人から聞かれるので.
整理する時間ないから,とりあえず思いつくままの羅列.

 

「講義」“だけ”に関していういと時給が高い.いや,高かった.
今の若いセンセイは可哀想なくらいだという噂.
まあ,10歳上のセンセイからみたら,おれらも可哀想なんだけど.(笑)

でも逆に、コマ単価が高いということは,
予備校にとっては「使いにくい」ということ.
なので一般的には
若い時:やっすい単価で沢山授業して腕を磨く

年寄り:高い単価で授業を少しだけする
というのがパターン.
ホントは・・・・・・・・・,
年寄り:高い単価で“高品質な”授業を少しだけする
でなければならないのだが,
そうとは限らない.
(笑)、ではない.

拘束時間は少ない.
反面,仕事のやり方次第では家でもず~っと仕事.
おれみたく.

やれ模試だ教材だと裏方仕事すると,
時給は一気に下がる.
“手を抜かずに”やると,東京都最低賃金=1,013円/h をも下回る.
おれは,遥かに下回ってる負け組.(笑)

でも,そうした「書いて,他の“同業者”に批評される」という業務により,
スキルはアップする.
諸先輩の先生方に「タコ!カス!」と罵られたおかげで,
ワリとマシな著作物が書けるようになったし,
もちろん授業でも活かされてる.
感謝しかありませぬ.

書くのが大変なのは,基本事項.
体系的にまとめ,紡いでいく力が求められるから.
「整数」の本とか,頭がどうにかなりそうになった.
ていうか,なった.
「これ書き上げるまで死ねないから高速運転は勘弁して」
とか,真顔で言っててドン引きされた.
「計算」とかも,自身は無意識にやってたりする部分が多いので,
文章として書き起こして人に伝えるのは大変.
「確率」は,答案が直観的になりやすく,言葉と図式で“他者に”どう伝えるかが悩ましい.
「センター」は,形式が特殊過ぎて,数学的内容“以外の面で”疲れる.
今気づいたけど,書きにくいものばかり書いてきた.
いわゆる「入試典型問題集」なら,
一冊三晩で書けるけど(誇張ではなく).
他のいろんな人が書いてるからまーいーやと.(笑)

あ.
とりあえず「本を出したい」とかいう人がいたら,
SNS やら Youtube でフォロワー増やすのが最短ルート.
向こうから飛びついてくる.
中身がなくても.(笑)
一定部数は売れることが読めるのでね.
(今のうちかな?そのうち過当競争になるかも.いや,もう遅い??)

なので,職業講師がYoutuberさんに噛み付いて酷評してるとか
たまに耳にするけど,
かな~り痛い行為.
立場が逆なんだってば.今や.
「職業講師」の中にも間違ったこと教えてるヒトがいることを
おれは知ってるし.(笑)

あるテキスト作成の既得権益にしがみつき,
手抜きでサッと原稿出し,
毎年改定して改定料をセコく稼ごうという人にとっては,
裏方仕事もけっこう美味しい.

裏方仕事せず,講義だけする人が,いちばん美味しい.
授業の中身は・・・なのだが,
なにせ評価するのが内容の良し悪しわからない「生徒」だし.
チョロい.

でもその人は,話術で生徒を惹き付けやる気にさせるという別種のスキルを持ってるということ.
ある意味芸人さんにも通じる,その人のパーソナルな魅力.
予備校には,そうやって生徒を呼び込む人材もゼッタイ必要!
講師全員がおれみたく「現象そのものをあるがままに~」なんて言ってたら,
たぶん相当息苦しい.(笑)

生徒“受け”は良いけど,
“自身”の良心に照らして良質でない講義が平気で出来る人.
もっというと,自分の講義が良質でないと気付いてすらいない人.
でも,“生徒”からの評価は高いみたいだし,これでいいか.
そんな人にとって,この稼業は美味しい.

とはいえ,生徒のレベルが上がるに連れ,
講義の品質を見抜く力も少し上がって来る.
中身のない人は,通用しにくくなる.
もちろん予備校は,適材適所を考えて講師を配する.(笑)

というように,おれは基本的には自己評価の方を重視する.
とはいえ,やっぱりなんだかんだいって,
「講師」として得られる最大の報酬は
自分のした仕事が,生徒さんの学力向上に役立ったという実感.
それが感じ取れたときは,木に登りたくなるくらいうれしい.(笑)
こんなおれの地味で普通で真っ当な教えを受けとめ,
ちゃんと踏み台にして活用してくれる生徒さんに対して,
心から感謝したい.
いつもそう思ってる.

ときどき,いわゆる人気講師が“あそこ”に引き抜かれていく.
破格のペイを提示されて.
大手ヨビコウは,それを阻止するためにと講料上げるとかほとんどしない.
だって,その人気って,KとかSとかいう『ブランドの裏付け』あってのものだから.
その人がいなくなれば,短期的には少し影響あっても,
次のランクの講師が代わりにトップに昇格して居座るだけのこと.
何度も見てきた光景.
むしろ,「元○○の超有名講師が登場」とか宣伝してくれるおかげで,
「ああ.○○って,やっぱり大手で凄いんだ」って世間に知らしめてくれてるワケ.(笑)
大手の賢い経営戦略.
あ.「次のランク」って,いわゆる人気の話.
内容・実力は,「次」じゃなくむしろ上回ってるケースもある.

仕事の量を,基本的には自分でコントロールしやすい職種.
とはいえやはり,一部の“出来る”センセイに仕事は集中しやすく,
自分でセーブして断らないと,おれみたく広尾の日赤まで救急搬送される.
あら.自分のことを出来ると言ってしまった.(笑)

仕事の品質,生徒からの人気.
そして体調管理も含めて,
自身を客観視してマネジメントすることが肝要.
個人事業主のようなものです.

デキる数学のセンセイは,多くの場合「学者」やれる能力がありながら,
ワケありでこの稼業に流れ着いている.
旧くは学生運動.
あるいは医学実習で血を見るのが苦手だったと気付いたとか・・・(笑)
ふつう,なりたくてなる職業ではない.
まあ,そうした「社会からドロップアウトした能力ある人材の受け皿」として,
この稼業には一定の存在価値があると言える.
という訳で,「どうして予備校講師になったんですか?」とか聞くのは
人の心の傷口に塩を塗る行為なので慎みましょう.(笑)

というワケでなりたくてなったワケではない講師が多いが,
だからといって仕事に対して熱意がないとは限らない.
望んではいなかった状況に身を置きながらも,
そこで地べた這いつくばり必死にもがいてヤリガイを見つける人もいる.
(もちろん,そうではない人もいる.(笑))
逆に,夢をかなえて医者になったはいいが
最新の論文に目を通すことなく
「お腹が痛いです」 → 「胃薬出しましょ」
で商売してるのもいる.
国家資格にあぐらをかいて,ひたすら老後を待つ.
全ては人次第.
人生それぞれ島倉千代子.

人間関係のしがらみが少ない.
個人のマンパワーによる部分が大きい.

職業として不安定.と言われていたが,世間全体が終身雇用壊れ不安定化.
30年前,まさか早期退職迫られてる銀行員さんより長く働けるなんて思ってもみなかった.(笑)
相対的にいうと,“今は”さほど不安定な職種でもない.
だが,今後は・・・

18歳人口は向こう50年減少することがほぼ確実.
縮小産業です.
老人介護が拡大産業?

また,コロナ禍を経て,授業の映像化が今後一気に加速するはず.
ていうか,しなきゃいけなかった.これまでも.
多数のセンセイが,教室で,生徒に,品質今一な「授業」を行うなんて,
どう考えても非合理的.
「授業」をするために必要な講師の数は激減していく.
「個別」に面倒をみるスタッフのニーズの方が高まるはず.

今まででも,限られた数のパイを奪い合うため,
講師どうしでの醜い(セコイ)足の引っ張り合いはあった.
ヨビコウごとに「文化」があって,
「派閥の論理」で人事が決まったり(政治かよ),
若い出る杭を叩く「キトクケンエキジイサン」がいたりとか.
まあ,そうした嫌な思いをしながら,自分の居場所に流れ着いていく.
なお,教科によって熾烈さはまるで異なる.
数学の場合,もともと「まあそこそこは数学が出来る人」“だけ”が分母なので,
めっちゃゆるい.(笑)

数学講師が5人集まって会議したりすると,
すぐに序列が決まる.
猿山のように.(笑)
生徒と同様,講師にも「出来る」「出来ない」の優劣がハッキリとある.
(「力」のね.「人気」じゃなく.)
そして,いちよプロなので,それを“自覚できる”.悲しいことに.
「ああ,おれはこの5人の中でAの下,CDEよりは上」ってわかる.
嫌と言うほどハッキリわかる.
よく,会議してるとよその会議室から他教科の喧々諤々の議論が聞こえてきたりすることがあるが,
数学室では,唾・飛沫飛ばして討論とか,まずない.
C先生の問題提起に対して,誰か出来る人が
「それって,※△○◇ってことだよね.」といえば,皆無言で頷いてオシマイ.
平和だ.数学サイコー.
ご~く稀に,そうした序列を自覚できません君がいると,一気に場が壊れるが.(笑)

この商売始めてから,先輩講師に仕込まれたいい話.(数学の内容以外で)
1.黒板は上から下へ一方向に消せ.そうしないと,宙を舞ったチョークの粉を吸い込み,10年で肺をやられる.前の席に座ってる生徒さんもかわいそうだし.←動画あり
2.授業をするのは自分だが,その“お膳立て”をしてくださる教務事務関係者さんおよび校舎スタッフさんへの感謝を忘れるな.

上記1.に絡んで.
とにかく数学講師は,書く.
(マジメな数学講師の場合)記述式答案を全部書くのはもちろん,
やれ発想法だのやれ関連・参考事項だのと・・・
一部の国語,英語のセンセイみたく教卓前の椅子に座り喋って授業とかあり得ない.
物化みたいに答と途中式の羅列程度という訳にもいかない.
1コマの授業でのチョークの消費量は,他教科の3倍以上は間違いなく行ってる.
授業時間中,ずっと書いてる.
黒板を消してるとき以外は.(笑)
マナビスの場合は,ADさんが消してくださるので,それこそ書きっ放し.
ついでに言うと,伝えたいことが山ほどあるもんで,
授業中ずっと喋りっぱなしでもある.
昔,いろんな授業を録音してた生徒がいて(←いちよいけない行為だよ~),
「広瀬先生の授業だけ,音が途絶えません」って笑われた.(笑)
まあ,おかげで1コマやるとコンマ5kgは体重落ちる.
ダイエットも兼ねる.
(こんなクソ真面目な授業についてくる生徒さん.それ自体が凄い才能だわ.マジ感謝!)

授業にあたっての心掛け:
1.数学の正しい「学理」を伝える.
2.伝えるにあたって,正しい文法に則って言葉を話し,書く.
3.その言葉を,いちばん後ろの席まで届く声で発する.
全部,あたりまえで普通なことばかりですが.(笑)

そう,あたりまえ.
おれが授業で教えてる数学的内容も,全部あたりまえ.
だいたい,受験レベルの数学“ごとき”に,真のオリジナルなものなど,ある訳がない.
あるハズがない.
これだけ体系的に整備された「数学」を教えるにあたって,
まっとうな,学理に忠実な授業をすれば,
自ずと普通の,凡庸な,人畜無害な授業へ収束するものだと.
上記「先輩講師に仕込まれたいい話2.」の先生等に何度も言われた.
だから,「わ!このセンセイすっごいわかりやすいし知らないこといーっぱい教えてくれる」
なんて場合,まやかしものであるケースが多い.(笑)
(上述したように,そうして生徒のやる気を喚起するタイプの講師にも存在意義はあるが.)

だから,自著のタイトルに自分の名前を冠した
「○○の快速数学」とかいう類の本を見ると,
なんかバカっぽいし,滑稽.
だいいち,親類縁者に見つかると超ハズイ.(笑)

という訳で,おれが教えてる内容に,オリジナリティーなど一切ない.
全て,“まともな”講師ならやってることばかり.
(まともじゃないのがけっこう多いんだが・・・苦笑)
他の講師に“盗まれて”困るものなど,一つもない.
だから,youtubeとかマナビスとか今回のコロナ対策映像とか,
生徒以外に見られる可能性があっても別にかまわない.
けっこう,同業者に見られることを嫌がるセンセイもいるらしいが,
少なくとも数学においては,「キミ,何かカンチガイしてない?」って感じ.

上記「授業にあたっての心掛け3.」に絡んで.
授業3時間前以降は,食べない.
食べると(おれは)声が出ない.
共鳴腔が狭くなる気が(おれは)する.
(↑は非科学的.「腹」は共鳴しない(笑).実際は,「横隔膜の動きが阻害される」かな)
飯を食っては戦はできぬ.
授業前,講師室で飯掻き込んでるセンセイとか,
(おれから見たら)まるでスーパーマン.(笑)

人生(の何%)かをかけて受験に挑む生徒に必要とされてなくて,
「授業減らしませんか?」と言われても,
「労働者としての権利」を盾に,ゴネて居座る.
そんな人にとって,この稼業は美味しい.

総じて,「仕事に対する充足感」と「経済効率」は比例しない.
まあ,「仕事」って,たいがいそういうものでしょうが.

最後.
職業選択は,個人の自由.
おれはこの稼業を勧めないが,決めるのは個人個人.


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